野球を観戦していると、時折耳にする「パスボール」という言葉。しかし、その意味やルールを正確に理解している人は意外と少ないかもしれません。
試合の流れを大きく左右するこのプレーは、投手でも野手でもなく、捕手の動きがカギを握っています。スコアにどのように記録されるのか、似たような「ワイルドピッチ」との違いは何なのか――そんな疑問を感じたことがある方に向けて、この記事では「パスボールとは何か?」をわかりやすく解説します。
このページでわかること
- パスボールの正確な定義と判断基準
- ワイルドピッチとの違いと見分け方
- 実際にパスボールが発生しやすい場面の具体例
- スコアブックでの記録方法や記録員の役割
- 捕手の心理やプロ試合での事例などの裏話
パスボールの基本を理解しよう

「パスボール」とは何かを理解するには、まずその定義や判断基準、類似するプレーとの違いを押さえることが大切です。
パスボールの定義
パスボールとは、取れるはずのコースのボールを捕手が後ろに逸らした際に記録されるプレーです。
普通の守備でなら保持することができたと思われる投手の正規の投球を、捕手が保持または処理しないで、走者を進塁させたときには、捕手に捕逸が記録される。
出典:公認野球規則9.13(暴投・捕逸)
パスボールとは、捕手が容易に捕球できたはずの投球を取り損ね、その間に走者が進塁してしまった場合に記録されるプレーです。これは、捕手の技術的なミスとして扱われます。
このプレーが成立する条件は、「投球が難易度の高いものでなかったにもかかわらず、捕手が捕球に失敗したこと」と「そのミスによって走者が進塁したこと」の2点です。つまり、投手ではなく捕手の責任で走者が進んだと判断される場面に限って、パスボールが記録されます。
一見すると些細なミスにも見えますが、得点圏に走者が進んだり、流れが変わったりと、試合に大きな影響を与えるケースも少なくありません。
ワイルドピッチとの違いはここにある
パスボールと混同しやすいプレーが「ワイルドピッチ(暴投)」です。どちらも捕手がボールを後ろに逸らす結果になりますが、原因の違いに注目することで見分けることができます。
以下の表は、パスボールとワイルドピッチの違いをわかりやすく整理したものです。
項目 | パスボール | ワイルドピッチ |
---|---|---|
責任の所在 | 捕手のミス | 投手のミス |
投球の内容 | 捕球可能なコース・スピード | 大きく外れたコース、バウンドする球 |
記録名 | PB(Passed Ball) | WP(Wild Pitch) |
このように、記録をつけるうえでは「誰に責任があるのか?」が重要になります。中継を見ていて「今のはどっちだろう?」と感じた時は、投球の内容と捕手の反応を観察してみると、判別の手がかりになります。

どんな場面でパスボールが発生するのか
パスボールは、捕手の一瞬の油断や判断ミスで発生することが多く、さまざまな場面で見られます。特に起こりやすいのは以下のようなケースです。
- 直球を構えたミットからこぼしてしまう
↳捕球姿勢は整っていたが、単純なミスでボールが逸れるケース - フォークボールを受け損なって後逸
↳捕手がボールの落差を読み切れず、後ろに逸らすことがある - 外角への投球に対して反応が遅れる
↳構えと異なるコースに来たが、捕球可能だったと判断されるケース
これらはいずれも「捕手がしっかりと準備できていたか」「投球の難易度はどうだったか」によって記録が分かれます。見た目には似たようなミスでも、背景によってまったく違う評価になる点が、野球の奥深さでもあります。
ワイルドピッチ(暴投)とは
投手の正規の投球が高すぎるか、横にそれるか、低すぎたために、捕手が普通の守備行為では止めることも処理することもできず、そのために走者を進塁させた場合には、暴投が記録される。
出典:公認野球規則9.13(暴投・捕逸)
また、投手の正規の投球が、捕手に達するまでに地面やホームプレートに当たり、捕手が処理できず、そのために走者を進塁させた場合にも、暴投が記録される。
ワイルドピッチとは、捕手が明らかに取ることができないボールに対して記録されます。
そのため、フォークボール(落ちる系の変化球)やすっぽ抜けがワイルドピッチとして記録されやすい傾向にあります。
パスボール同様、結果としてランナーが進塁してしまったときに限って記録されます。
パスボールとワイルドピッチの違い
用語 | 概要 |
---|---|
パスボール | 捕手のエラー |
ワイルドピッチ | 投手のエラー |
つまり、バッテリー間のミスによってランナーが進塁してしまった場合、捕手責任か投手責任かで用語が変わります。
どちら側にエラーの記録がされるかに注目することで、両者の違いが理解しやすいでしょう。
自責点の記録
用語 | 自責点 |
---|---|
パスボール | × |
ワイルドピッチ | 〇 |
また、自責点についてもワイルドピッチは記録されます。パスボールは捕手のエラー。つまり味方守備のエラーになるため、投手の責任による失点である「自責点」には記録されません。

パスボールのスコア記録と判定の基準

パスボールは単なるプレーミスではなく、公式記録にも大きく関わる要素です。
スコアブックではどう記録される?
野球では、すべてのプレーをスコアブックに記録することで試合の詳細な記録を残します。パスボールが発生した場合は、「PB」という略号で記され、失点に直接つながる場合は、その責任も記録上に反映されます。
たとえば、無死一塁で捕手がパスボールを犯し、走者が二塁に進塁した場合、そのプレーは「PB」で表されます。さらに、その後に打者のヒットで走者が生還したとしても、その得点は「自責点」にはなりません。これは、パスボールが守備側のミスによって発生した進塁であるためです。
スコアブック上では、投手の責任かどうかを区別するためにも、パスボールの記録は重要な意味を持ちます。
審判や記録員がどう判断するのか
パスボールかワイルドピッチかの判断は、記録員の主観的な評価が大きく関わります。球場には通常、公式記録員が配置されており、彼らがプレーの一つ一つを精査して、どのように記録すべきかを判断しています。
判断の材料となるのは、投球の質と捕手の動きです。以下のようなポイントが基準として用いられます。
判断ポイント | 判定条件 |
---|---|
投球のコース・スピード | 捕手が通常通り構えていれば捕球可能な投球 |
捕手の姿勢・反応 | 捕球態勢が整っていたにもかかわらずミスした場合 |
バウンドの有無 | ワンバウンドしていないこと(バウンドしていればWP) |
こうした判断は一瞬のプレーでなされるため、試合後にリプレーを見返しても議論になることがあります。記録員は公平で一貫した判断が求められますが、野球のプレーは非常に多様なため、判定が難しいこともあるのが現実です。
三振振り逃げの場合【暴投】
バッターが空振り+暴投になった場合、振り逃げでランナーが出塁することができます。
その際は「三振」と「暴投」が記録されます。つまり、三振が記録されたにもかかわらず、アウトカウントは増えていない状況です。そのため、1イニング4三振のような記録がされることもあります。
・第3ストライクが暴投となり、打者が一塁に生きた場合は、三振と暴投を記録する。
・第3ストライクが捕逸となり、打者が一塁に生きた場合は、三振と捕逸を記録する。
出典:公認野球規則9.13(暴投・捕逸)
パスボール/ワイルドピッチの過去記録
パスボールとワイルドピッチの過去記録を紹介します。
パスボール
リーグ | パスボール数 | 選手名 |
---|---|---|
パ・リーグ | 17 | 野村克也 |
セ・リーグ | 17 | 若菜嘉晴 |
過去最高のシーズン記録は両リーグともに「17」です。
ちなみに2022年シーズンの最多パスボールは曾澤選手の「5」になります。年々、野球レベルが向上していることがパスボールの記録推移から推察できます。
ワイルドピッチ
リーグ | ワイルドピッチ | 選手名 |
---|---|---|
パ・リーグ | 25 | 新垣渚 |
セ・リーグ | 20 | 石井一久 |
2022年シーズンは、益田投手の8つが最多記録となりました。
ワイルドピッチ数の減少からも、投手レベルの向上が推察できますね。
パスボール/ワイルドピッチまとめ
パスボールとは、取れるはずのコースのボールを捕手が後ろに逸らした際に記録されるプレーです。一方でワイルドピッチとは、捕手が明らかに取ることができないボールに記録されます。
パスボールは捕手のエラー、ワイルドピッチは投手のエラーと考えると理解しやすいと思います。
また、ワイルドピッチは投手によるエラーのため、自責点が記録されます。一方でパスボールは、捕手のエラーになるため、投手の自責点には含まれないこと注意しましょう。