投手の実力を正しく評価するには、防御率や奪三振数だけでなく「援護率」という指標にも目を向ける必要があります。特に、応援している投手の勝ち星が伸び悩んでいると、「チームの援護が足りないのでは?」と感じたことがある人も多いのではないでしょうか。
援護率は、登板中にどれだけ味方打線が得点してくれたかを示す数値で、勝ち負けに大きな影響を与えます。しかしその一方で、数値の意味や使い方を誤解してしまうと、選手評価を見誤る原因にもなりかねません。
この記事では、援護率の定義から計算方法、見方のコツ、さらには援護率が投手に与える心理的影響まで、野球ファンとしてぜひ押さえておきたい情報を徹底的に解説します。
このページでわかること
- 援護率の基本的な意味と計算方法
- 援護率が高い投手・低い投手の実例とその背景
- 援護率と勝率、チーム戦略の関連性
- 援護率を見る際に注意すべき誤解と落とし穴
- 援護率が与える心理的影響と評価指標との比較
野球の援護率とは?

援護率:1試合あたりどれだけ打線の援護を受けたか(9イニングで味方が何点とるか)
援護率は、英語でRun support (Run Support per Nine Innings)と言われます。
NPBで正式に記録されている数値ではありません。投手を評価する際の1つの参考指標です。
援護率が高いと「勝ち投手」に繋がりやすく、援護率が低いと「負け投手」になりやすいです。勝ち運や負け運に繋がりやすいのが援護率の指標です。
援護率は大きければ大きいほど、味方の援護が多いということであり、投手にとって有利な状況となります。
勝ち運と負け運
援護率は、勝利投手/敗戦投手になる確率に直結してきます。
たとえ何失点したとしても、味方打線がそれを上回る得点をした場合、その投手は勝ち投手の権利を手にすることができます。反対に、失点が少なくとも味方援護がなければ敗戦投手になることもあります。
投球のテンポが攻撃のテンポを作るとも言いますが、味方が攻撃しやすい流れを呼ぶ投球をすることで、援護率はアップするかもしれません。

ムエンゴ病とは
ムエンゴ病とは、その名の通り「無援護」な投手を指します。
どんなに良いピッチングをしても、味方が得点を取れずに勝てない。そんな投手はムエンゴ病が疑われます。
一概に投手のせいではないですが、毎試合ムエンゴな投手もいますし、投球のテンポや雰囲気による試合の流れというのは、目には見えませんが、存在する気がします。
計算方法
援護率:「降板する前に取った味方の得点×9」÷「降板するまでの攻撃回数」
援護率は上記のやり方で計算することができます。
援護率の分析と実例

援護率の数値そのものだけでは、投手の実力や試合展開をすべて読み解くことはできません。
そこで重要になるのが、実際の投手データや勝率との比較、そしてチーム状況やリーグ全体の傾向といった分析です。。
援護率が高い投手と低い投手の比較
援護率の高低が投手の成績にどう影響しているのかを知るには、実例を通じた比較が有効です。ここでは実際のプロ野球選手の援護率データをもとに、違いがどこに表れるのかを検討します。
例えば、以下のような比較が可能です。
投手名 | 援護率 | 防御率 | 勝敗 |
---|---|---|---|
A投手 | 6.12 | 3.45 | 13勝4敗 |
B投手 | 2.95 | 2.78 | 6勝9敗 |
同じような防御率でも、援護率の違いで勝敗が大きく異なる点に注目してください。援護率は、投手の能力というよりもチームの打線に左右される場面が多く、数値の裏側を読み取る視点が求められます。
援護率と勝率の関係
援護率と投手の勝率は密接な関係にあります。特に先発投手にとっては、初回から味方が点を取ってくれるかどうかで、心理的にも展開的にも大きな違いが生まれます。
以下に、援護率と勝率の傾向をまとめた表を紹介します。
援護率 | 平均勝率 | 特徴 |
---|---|---|
5.00以上 | 0.600前後 | 安心して投球できるため、勝率が安定しやすい |
3.00〜4.99 | 0.500前後 | 成績は投手の実力に左右されやすい |
3.00未満 | 0.400以下 | 援護に恵まれず、敗戦が増える傾向 |
このように、援護率の違いは勝率に明確な影響を与えており、投手成績の裏にある試合状況を知る手がかりになります。
援護率の平均値や目安
援護率が「高い」か「低い」かを判断するには、基準となる数値を知っておくことが重要です。プロ野球における援護率の平均は年やリーグによって異なりますが、おおよその目安は以下のとおりです。
援護率 | 評価 | 解説 |
---|---|---|
〜3.00 | 低援護 | 味方の得点が少なく、勝ちにくい |
4.00〜5.00 | 標準 | 平均的な援護、特に偏りは見られない |
5.00〜 | 高援護 | 得点支援が多く、勝ちやすい状況 |
これらの数値はあくまで目安であり、援護率の背景にあるチーム打線の力や対戦相手のレベルなども総合的に見て判断することが求められます。

野球の援護率の計算例
実際に援護率の計算方法を紹介します。
途中交代
- 先攻
- 5回を投げ切る
- 味方が3点獲得
上記の場合、3×9÷6=4.5です。つまり、上記のケースの援護率は4.5となります。
完投
- 後攻
- 9回投げ切る
- 味方が2点獲得
上記の場合、2×9÷8=2です。つまり、上記のケースの援護率は2となります。
イニング中に降板
- 先攻
- 7回1アウトまで投げる
- 味方が7点獲得
上記の場合、7×9÷6=10.5です。つまり、上記のケースの援護率は10.5点となります。
イニング途中の交替の場合、どういう計算式になるの?と思われる方が多いと思いますが、援護率の計算式に投球イニングは含まれません。そのため、イニング途中の交代でも計算に大きな影響は与えないでしょう。

プロ野球の援護率ランキング

援護率は味方打線の得点力と、その投手の試合の流れをよくする投球ができるかが影響してきそうです。参考ベースに、2022年の援護率を紹介します。
セ・リーグ
選手名 | 防御率 | 勝 | 敗 | 援護率 |
---|---|---|---|---|
森下 暢仁 | 3.17 | 10 | 8 | 5.40 |
青柳 晃洋 | 2.05 | 13 | 3 | 4.11 |
菅野 智之 | 3.12 | 10 | 7 | 3.95 |
今永 昇太 | 2.26 | 11 | 4 | 3.52 |
戸郷 翔征 | 2.62 | 12 | 8 | 3.36 |
西 勇輝 | 2.18 | 9 | 9 | 3.14 |
大野 雄大 | 2.46 | 8 | 8 | 2.88 |
柳 裕也 | 3.64 | 9 | 11 | 2.74 |
小川 泰弘 | 2.82 | 8 | 8 | 2.62 |
小笠原 慎之 | 2.76 | 10 | 8 | 2.31 |
当然ですが、援護率が高いほど勝ち越している投手が多い印象を受けます。
特にセ・リーグは投手による援護率の差が激しく、森下投手と小笠原投手では1試合当たりの援護点が倍近く違います。
パ・リーグ
選手名 | 防御率 | 勝 | 敗 | 援護率 |
---|---|---|---|---|
宮城 大弥 | 3.16 | 11 | 8 | 4.44 |
田中 将大 | 3.31 | 9 | 12 | 4.33 |
伊藤 大海 | 2.95 | 10 | 9 | 4.15 |
千賀 滉大 | 1.94 | 11 | 6 | 3.52 |
上沢 直之 | 3.38 | 8 | 9 | 3.48 |
山本 由伸 | 1.68 | 15 | 5 | 3.09 |
髙橋 光成 | 2.20 | 12 | 8 | 2.97 |
小島 和哉 | 3.14 | 3 | 11 | 2.60 |
加藤 貴之 | 2.01 | 8 | 7 | 2.44 |
田中投手は援護率が多い割に負け越しの結果となりました。
ちなみに田中投手が記録した伝説の24勝0敗のシーズン、援護率は6.22と非常に高い記録でした。味方の援護率が高かったこともあの記録を生んだ大きな要因です。
ワースト記録
規定投球回内の場合、中日の小笠原投手です。※2022年のワースト
一方、規定投球回に絞られない場合は西武の隅田投手の援護率が1.78でした。つまり、1試合で2失点したら敗が記録されるという非常に厳しい記録です。
結果、隅田投手は1勝10敗という結果でシーズンを終えました。試練の1年目でしたね….
ムエンゴな投手
過去に援護率が低かった投手は上記動画でまとめられていました。
22年は援護率が高かった山本投手や菅野投手も全く味方に援護されない時期があるなど、ムエンゴがどれだけ投手の勝利権利を奪うかをより理解できます。
まとめ|援護率で野球の見方が変わる
援護率とは、1試合あたりどれだけ打線の援護を受けたか(9イニングで味方が何点とるか)を評価した指標です。「降板する前に取った味方の得点×9」÷「降板するまでの攻撃回数」の計算式で求めることができます。
一般的に、援護率が低い投手のことをムエンゴな投手と表現し、投手の勝率に直結します(勝ち運や負け運と表現)。
援護率をあげるために、投手ができることはテンポの良い投球などの試合の流れ作りしかありませんが、勝ち運が高い投手と負け運が高い投手の差が倍近くあると考えると、投手にも一因はありそうです。